来年(2027年)に、新しくポワロのドラマが作られることになりました。ポワロといえば、鋭い観察力でパッと犯人を見つけるカッコいいミステリーのお話だと思う人が多いかもしれません。でも実は、ポワロの物語には、ただの事件解決だけでなく、むかしのヨーロッパの本当の姿や、人々のリアルな暮らしがそのまま映し出されているのです。今回は、お話のうしろに隠された歴史のヒミツをのぞいてみましょう。

なぜポワロはベルギー人なのか。国境を越えてやってきた難民

ポワロはイギリスで活躍する探偵ですが、生まれはベルギーという別の国です。なぜわざわざ外国人のポワロが主人公なのでしょうか。 それは、ポワロが「大きな戦争(第一次世界大戦)から逃げてきた難民」だからです。
イギリスのまわりには、国境が地面でつながっていて、お互いに影響し合っているヨーロッパの国々がたくさんあります。戦争のせいで自分の国にいられなくなり、イギリスへ渡ってきたポワロの姿は、当時のヨーロッパでたくさんの人が経験した苦しみをそのまま表しているのです。

事件のうしろに隠された社会のテーマ

そして、ポワロが挑む事件には、当時の社会のダメなところや、みんなが困っている問題をチクリと指摘することがたくさんちりばめられています。

  • 『ABC殺人事件』:戦争に行って、心に深い傷を負って苦しんでいる人の姿 このお話には、戦争に行って、心に深い傷を負って苦しんでいる人が登場します。大きな戦争が終わったあとも、人々の心の中には恐ろしい記憶が残り、それが事件に深い影を落としていることを教えてくれます。
  • 『アクロイド殺し』:お金ばかりを追いかけるギスギスした心 この物語の舞台では、お互いを信じることよりも、お金持ちになることばかりを考えて、みんなの心がギスギスしていく様子が描かれています。豊かになる一方で、大切な優しさを忘れていく当時の社会への警告が含まれています。
  • 『オリエント急行の殺人』:特別な列車と、世界を悲しませたニュース 国境が地面でつながっていて、お互いに影響し合っているヨーロッパの国々を走る特別な列車の中で起きる事件です。これは、当時アメリカで実際に起きたとても悲しい誘拐事件をもとに作られました。世界中でニュースになった事件の後ろにある家族の深い悲しみが、さまざまな国から集まった登場人物を通して描かれています。
  • 『ナイル殺人事件』:愛とお金をめぐる激しい裏切り エジプトへの旅行中に起きる事件です。お金を手に入れるために仕組まれた嘘の結婚や、激しい嫉妬、あるいは信じていた人からの裏切りが描かれています。本当の愛よりもお金を優先しようとしたとき、どれほど恐ろしい悲劇が生まれるかをつきつけています。
  • 『愛国殺人』:2人の人と同時に結婚するヒミツが生んだ悲劇 銀行のとてもえらい人が、自分が「2人の人と同時に結婚すること(重婚)」という法律に違反する大きなヒミツを隠すために、次々と人を殺してしまうお話です。自分のお金や高い地位を守るためなら、法律や人を裏切ることもいとわないという、人間の欲の深さが事件の引き金になっています。

相棒たちとの会話に隠された本音

ポワロのまわりには、いつも決まった相棒たちがいます。ポワロが彼らと交わす何気ない会話の中には、当時のイギリスの人たちが、新しく変わっていく社会をどのように見ていたかという本音が細かく隠されています。

ポワロのまわりには、いつも決まった相棒たちがいます。ポワロが彼らと交わす何気ない会話や、彼らのプライベートなエピソードの中には、当時のイギリスの人たちが、新しく変わっていく社会をどのように見ていたかという本音が細かく隠されています。

まず、一番の親友であるヘイスティングス大尉は、大きな戦争でケガをして戻ってきたイギリスの元軍人です。彼は「イギリスの立派な紳士は、どんなときも女性を信じて優しくするべきだ」という、むかしからの決まりをとても大切にしています。そのため、『スタイルズ荘の怪事件』というお話などでは、見た目が美しくてかわいそうな女性をすぐに信じてしまい、犯人の嘘に何度もだまされてポワロからあきれられてしまいます。
さらに彼には、うまい投資の話をすぐに信じてしまい、だまされて大切な資産を失いそうになるエピソードもあります。最終的に彼は、『ゴルフ場殺人事件』で出会った、事件に関係のあるデュルシーという女性と恋に落ちて結婚し、イギリスを離れて南アメリカのアルゼンチンという遠い国へ移住して、大きな牧場を経営することになりました。
彼が古い紳士のルールにこだわり、お金の失敗をしたり、最終的にイギリスを離れて外国で新しく仕事を始めたりする背景からは、世の中の仕組みが急激に変形していく中で、「むかしの安心できた時代のままでいたい」と変化を怖がる人たちの戸惑いが伝わってきます。同時に、むかしの栄光にしがみつくだけでは暮らしていけなくなり、新しい世界へ飛び出さざるを得なかった、当時のイギリスの元軍人たちの厳しい現実や焦りがリアルに表現されているのです。

次に、イギリスの警察(ロンドン警視庁)で働くジャップ警部は、自分の足で歩いて怪しい人を順番に調べていくという、むかしながらの手続きを頑固に守る警察官です。彼は、部屋のイスに座ったまま頭(灰色の脳細胞)だけを使ってパッと事件を解こうとする、外国から来たポワロの新しいやり方が気に入りません。そのため、作中では「そんな座ったままで事件が解けるわけがない」とポワロに文句を言い、間違った人を犯人だと決めつけて逮捕しようとするエピソードが何度も登場します。
そんな頑固なジャップ警部ですが、プライベートではエミリーという名前の奥さんがおり、お家では奥さんに頭が上がらないというお茶目な結婚生活を送っています。ドラマ版のお話では、奥さんが留守の間にポワロを自分の家に招待し、イギリスのむかしながらの手料理であるシェパーズパイ(ひき肉とマッシュポテトの焼き料理)を自分で作って誇らしげにごちそうする場面があります。フランス風のおしゃれで美味しい料理が大好きなポワロは、ジャップ警部が作った素朴なイギリス料理を前にして、断れずに困ってしまうというユーラスなやり取りが描かれています。ジャップ警部が奥さんとの家庭を大切にし、素朴なイギリスの手料理を誇らしげにふるまう姿からは、彼が仕事だけでなく、普段の暮らしでも「イギリスのむかしながらの素朴で温かい生活」を何よりも愛していることがわかります。
新しく入ってくる外国の文化や考え方に戸惑い、それを受け入れられない当時の古い組織や一般の人々の頭の固さをチクリと指摘しつつも、自分たちの伝統を守ろうとする当時のイギリスの普通の人々の愛すべき頑固さが、彼の親しみやすいキャラクターを通して描かれているのです。

そして、ポワロの事務所で働く秘書のレモン女史は、人間らしい感情をいっさい表に出さない女性です。彼女は、何万枚もある書類や手紙を、1文字の間違いもなく完璧に整理する新しい仕組み(ファイリングシステム)を作り上げることに、自分のすべての情熱を傾けています。
話の中では、書類の並び順がほんの少しズレているだけで機嫌が悪くなったり、ポワロの事件よりも書類をきれいに並べる仕事を優先したりします。彼女がただ正確さとスピードだけを求めて機械のように正確に働く姿からは、むかしののんびりした手作業の暮らしから、効率ばかりを求めるようになった「機械のような新しい社会」へと、世の中全体が移り変わっていく様子がそのまま映し出されています。これはいまのコンピューティングに繋がりますね。
しかし、そんな機械のように完璧な彼女にも、たった一度だけ、仕事で大きな間違い(タイピングのミス)をしてポワロを驚かせたエピソードがあります。実は彼女にはハバード夫人というお姉さんがいて、お姉さんが管理人をしている学生寮で奇妙な盗難事件が起きていました。大好きな家族のことが心配で頭がいっぱいになってしまい、いつもなら絶対にしない文字の打ち間違いを3つも重ねてしまったのです。ポワロは「あの完璧なレモン女史がミスをするなんて、ただごとではない」と気づき、彼女の家族のために事件の調査に乗り出すことになります。
どんなに効率や正確さばかりを求める世の中になろうとも、人間の心にある家族を思いやる優しさや感情だけは、決して消し去ることはできないという、物語に込められた温かいメッセージが伝わってくるのです。

国境が地面でつながっていて、お換いに影響し合っているヨーロッパの国々からやってきたポワロが、これら3人のイギリス人と細かくやり取りを交わすことで、イギリス人自身では気づけない「時代の変わり目に生きた人たちの本音」が、説明不足にならずにはっきりと浮かび上がってきます。

100年前の物語が教えてくれること

ポワロの物語を読むことは、ただ犯人を見つけてスッキリするだけでなく、むかしの社会の本当の姿を知ることでもあります。戦争の傷跡や、お金に振り回される人間の姿など、100年も前の物語に描かれているテーマは、実は今の私たちが生きる世界の問題とも深くつながっています。ポワロの活躍を通して歴史を学ぶことで、私たちは今を生きるために大切なヒントを受け取ることができるのです。

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