1988年の夏。RCサクセションのアルバム『COVERS』が、親会社・東芝の巨大なインフラ事業(原子力発電)に抵触するという理由で、所属レコード会社から突如発売中止を言い渡された。

この事件はしばしば、巨大企業による「表現の弾圧」やコンプライアンスの象徴として語られる。だが、このアルバムが孕んでいた真のノイズ(危険性)は、単なる反原発というトピックにとどまるものではない。

忌野清志郎がここで企てたのは、日本という国が目を背け続けてきた「“戦後”の欺瞞」を、ロックというフォーマットを用いて白日の下に晒すことであったのだと、いま目の前の戦争を想起するとつくづくそう思えてならない。

「戦後」の音楽としてのロックと、戦争のリアリティ

そもそも、私たちが「ロック」と呼んできた音楽は、第二次世界大戦後の焼け跡と冷戦構造の中で生まれた、決定的な「戦後の音楽」である。ベビーブーマー世代の表現者たちは、常にベトナム戦争の影や核の脅威といった「世界が壊れるかもしれない」という身体的リアリティの中でビートを鳴らしてきた。

翻って、現在の私たちはどうだろうか。いくつもの悲惨な戦争が現在進行形で起きているこの世界において、その事実を引き受けることなくして、いまロックや思想を語ることに何の意味があるだろうか。

『COVERS』というアルバムは、まさにそのリアリティのど真ん中を撃ち抜いている。

「サマータイム・ブルース」ばかりが注目されがちだが、ここには「明日なき世界(Eve of Destruction)」や「黒く塗れ(Paint It Black)」、「シークレット・エージェント・マン」といった、戦争と冷戦の狂気を歌った楽曲がひしめいている。

清志郎は、経済成長という見せかけの平和(馴れ合いのOS)に酔いしれていたバブル期の日本に、生々しい火薬の匂いを持ち込んだのだ。

翻訳(カバー)という名のハッキング

清志郎の手法が際立っているのは、彼がストレートなプロテストソングを「ゼロから作らなかった」点にある。

彼は、誰もが知る海外のロック・クラシックの骨格(アーキテクチャ)を借り、そこに日本語の痛烈な直訳や超訳を「インストール」してみせた。

これは、前回触れた橋本治の『窯変』にも通じる知的なハッキングである。すでに世界中で標準化されている強固なコード進行とメロディの内部に、システムの矛盾を突く言葉を流し込む。

言ってみれば権威化された「洋楽」というプラットフォームそのものを乗っ取り、内部からバグらせるという極めて高度な実践であった。

「偉大なる見えざる手」によって綺麗に舗装され、抽象化されていく社会の中で、彼の声は決して洗練されることを拒み、意図的に「愛嬌のある、しかし絶対に妥協しないノイズ」であり続けた。

プラットフォームを迂回する野生

そして何より痛快だったのは、巨大なシステムから「規約違反」として弾き出された後の彼の身のこなしである。

東芝EMIという巨大プラットフォームからのリリースを絶たれた清志郎は、決して泣き寝入りすることも、システムに阿る(背広を着る)こともなかった。彼は素早くインディペンデントなレーベルへと乗り換え、ゲリラ的に本作のリリースを強行し、結果としてオリコンチャート1位を獲得してみせたのだ。

中央の巨大なインフラに依存せずとも、自らの足回りと圧倒的な「声」さえあれば、生活者に直接届くオルタナティブな経路(ビバリウム)は築ける。これは、システムに回収されないための、極めて実体的な証明であった。

音楽に限らずともそれを引き継ぐものは、あったのか? ただし、当時と圧倒的に違うのは、「発表」の場あるいは方法が(当時に比べれば)ずいぶんと拓けていることだろう。

ノイズを鳴らし続けること

国家や巨大なプラットフォームが、個人の命や戦争の悲惨さを「データ」として抽象化し、処理しようとする現代。私たちが『COVERS』から受け取るべきバックビートは、ノスタルジーではない。

それは、現在進行形の暴力や不条理から決して目を背けず、洗練されたシステムの中で「異物(ノイズ)」であり続けるという覚悟である。

波風を立てない同調圧力の中で、あえて半ズボンを履き、戦後という時代の欺瞞に対して声(裏拍)を上げること。その生々しい身体性こそが、私たちが自律のOSを組み上げるための、もっとも力強いソースコードとなるはずだ。

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