AI活用がもたらす「光」の部分を検証していく考えなのですがが、当然ながらそこには強烈な「影」も存在します。特に、「効率化=幸せ」と盲信して突き進んだ結果、人間が置き去りにされ、深い虚無感や不幸に陥っているリアルな事例(逆説)が存在します。

ビジネスや社会実装の現場で実際に起きている「AIによる不幸」の典型例を2つ挙げ、その原因と処方箋を解説しておきます。
※ 昨年来、AI活用のご相談は少なくありませんが、そもそも「盲信」を前提にしていては良い結果は生まれません。

事例1:アルゴリズムという「冷酷な上司」による管理(ギグ・エコノミーの現場)

これは配送ドライバーや倉庫作業員、あるいはフリーランスのプラットフォームで顕著に見られる事例です。AIが業務を最適化し、指示を出し、評価を行なう環境です。

1. なぜ幸せじゃないのか(The Problem)

「人間としての尊厳の剥奪と、終わりのない加速」

  • 文脈の無視: 家族の病気や交通渋滞などの「事情」をAIは考慮しません。「配達が3分遅れた」というデータのみでスコアを下げ、最悪の場合、アカウント停止(事実上の解雇)を自動的に通告します。
  • 透明性の欠如: なぜ評価が下がったのか、どうすれば回復するのか、ブラックボックス化されたAIの判断基準がわからず、労働者は常に「見えない監視者」に怯えることになります。
  • ラットレース: AIは「もっとも効率の良い動き」を学習し続けるため、人間が頑張れば頑張るほど、翌日のノルマの基準値(ベースライン)が上がり、休息が許されない状況が生まれます。

2. どうすればよかったのか(The Solution)

「『人間が中心(Human-in-the-loop)』の回復」

  • 決定権を人間に戻す: AIは「提案」や「アラート」に留め、解雇やペナルティなどの重大な決定は、必ず文脈を理解できる人間のマネージャーが最終判断を下すべきでした。
  • 「遊び」の設計: 効率を100%追求するのではなく、労働者の心身の余白(バッファ)を意図的に組み込んだアルゴリズム設計が必要です。「効率は落ちるが、離職率が下がり、幸福度が上がる」というKPIの設定が求められます。

事例2:コンテンツ生成の自動化による「創造の虚無」(マーケティング・クリエイティブの現場)

Webマーケターやライターが陥りやすい、「効率化の罠」です。ChatGPTなどで記事やメールを大量生産できるようになった結果、起きた現象です。

1. なぜ幸せじゃないのか(The Problem)

「『自分』が不在のコミュニケーションと、信頼の崩壊」

  • 作る喜びの喪失: かつて苦労して文章をひねり出した時の「達成感」や「思考の深まり」が消えました。「AIが出した80点の案」を右から左へ流すだけの作業は、自分が単なる「パイプ役」になったような虚しさを生みます。
  • AI to AIの無意味な応酬: 営業メールをAIで自動生成し、受け取った側もAIで要約して自動返信する。そこには情報のやり取りはあっても、「心」や「熱量」の交換がありません。結果、顧客は「大切にされていない」と感じ、長期的には信頼関係が希薄化し、LTV(顧客生涯価値)が下がります。
  • デジタル汚染: 魂の入っていない平均的なコンテンツをネット上に撒き散らすことは、自分自身のブランドを「ノイズ」に変えてしまう行為でした。

2. どうすればよかったのか(The Solution)

「AIを『思考の壁打ち』に使い、最後は『自分の血』を通わせる」

  • プロセスを愛する: 「楽をするため」ではなく、「より深く考えるため」にAIを使うべきでした。構成案はAIに任せても、最後の「手触り」や「独自の体験談」は必ず自分の言葉で書き換える。
  • 不便さを残す: 謝罪や感謝など、感情が重要なコミュニケーションにおいては、あえて非効率な「手書き」や「肉声」を選択する。AI時代だからこそ、「手間=相手への敬意」という価値が高騰します。

私たち自身が幸せであるために心得なきゃいけないこと

AIという強力な「加速装置」を手に入れた私たちが、不幸にならないために必要なマインドセットは、以下の3点に集約されます。

1. 「効率」と「幸福」は別次元の指標であると知る

資本主義は「効率」を善としますが、人間の幸福は往々にして「無駄」や「非効率」の中に宿ります。散歩、悩み、試行錯誤、雑談。AIにこれらを奪わせてはいけません。「AIに任せるべきタスク(作業)」と「人間が楽しみとして保持すべきタスク(営み)」を明確に区分けする必要があります。

2. 「オーナーシップ(主導権)」を手放さない

事例1のドライバーも事例2のマーケターも、共通しているのは「AIに使われている」状態です。「n8n」のようなツールを使う際も、「自分が楽をするためにコイツを使っているんだ」という主人としての感覚を失った瞬間、私たちはシステムの歯車に成り下がります。

3. 「不完全さ」への寛容を持つ

AIは確率論で最適解を出しますが、人間は間違える生き物です。AIの完璧さを基準にして、他人のミスや自分の遅さを責めるようになると、社会は息苦しくなります。「AIは優秀だが、人間は愛嬌」。このくらいの割り切りが、共生社会の潤滑油となります。