<マターナル経済試論>

20世紀の革命は、世界を変えようとして、世界を深く傷つけた。
否定によって始まり、全体主義へと傾き、未来の理想のために現在の生を手段化した革命は、やがて人間の尊厳そのものを犠牲にしていった。
共産主義の敗北などとすでに歴史に刻まれているという言説も多々存在するものの、これは私たち人類が深く傷ついたという事実そのものにほかならない。

ベルリンの壁が崩れた時、それは軍事力ではなく、「自由と魅力性」による勝利であった。しかし、その先に現れたのは、もう一つの見えない壁――すなわち資本主義という透明な壁だった。豊かさはショーウィンドウの向こうに溢れているのに、そこに手が届かない人々がいる。競争と効率の論理は、勝者と敗者、中心と周縁、強者と弱者を容赦なく分断していった。

ベルリンの壁が築かれる数十年前に、人類は未来を夢見ることができた。ワイマール共和国として、その夢はあった。1920年代〜30年代ドイツの「戦後民主主義」であったワイマール共和国は当時世界で最も自由で民主的な体制であったが、戦勝国からの過重な賠償賦課と、1929年恐慌という外的な要因がヒトを鈍らせてしまった。耐え難き困難と矛盾と不満とに苦しんでいた人たちは、ナチスを歓迎した。ナチスは、それら矛盾を衝き不満を確実に捉えることで、 ワイマール体制を打倒し、やがてユダヤ人、共産主義、社会主義、自由主義、カトリックと、つぎつぎと憎悪の対象を駆逐していくもの、その果てに待っていたものは、これまでになくはるかに陰惨な全体主義の地獄だった。

いまや、この壁の存在は、ベルリンの壁が崩壊した89年から何十倍もの長さを持っている。壁を持つ国の数は89年から何倍にも増えてしまった。
それらの壁を打ち壊すには、再び「打倒」や「敵の設定」によっては開かれない。
壊すのではなく、内側から開く力が必要なのだ。

それを、いま母性経済革命と呼ぼう。

母性とは、支配ではなく、育てる力である

ここで言う「母性」とは、性別の問題ではない。
それは次のような人間原理である。

  • 競争よりも 信頼を優先する力
  • 排除よりも 包摂を選ぶ力
  • 効率よりも 関係性の持続を重んじる力
  • 支配よりも 成長を見守る力

これまでの経済は、「奪う」「勝つ」「独占する」ことで成長してきた。
母性経済は、「育てる」「循環させる」「分かち合う」ことで成長する。

ここでは、資本の中心は「お金」ではない。
中心にあるのは、信頼・共感・関係性・時間・安心といった、これまで市場が正当に評価してこなかった“信頼資本”である。

否定しない革命、全体化しない革命、現在を犠牲にしない革命

母性経済革命は、20世紀型革命の3つの過ちを繰り返さない。

第一に、否定主義に立たない。
「打倒」から始めるのではなく、「すでにここにある肯定的な胚芽」から始める。人と人の間に、すでにある信頼、助け合い、小さな経済の芽を、静かに、しかし確実に育てていく。

第二に、全体主義に向かわない。
一つの正解、一つの思想、一つの中央集権に世界を統合しない。母性経済は、無数の小さなコミュニティ、無数の小さな経済、無数の小さな幸福が、互いに侵さずに並び立つ社会を目指す。

第三に、手段主義を拒否する。
「未来のために今を犠牲にしろ」とは言わない。
母性経済革命では、今日の仕事、今日の関係、今日の暮らしそのものが、すでに解放であり、喜びであり、意味を持つ。革命は「いつか起きるもの」ではなく、「今ここで生きられるもの」なのだ。

胚芽から始まる経済――小さな連鎖反応

母性経済は、国家や巨大資本から始まらない。
それは、一人から一人へと静かに広がる。

  • 一つの信頼ある取引。
  • 一つのフェアな雇用。
  • 一つの共感にもとづくサービス。
  • 一つの支え合う地域。

こうした「胚芽」が、連鎖反応のように広がっていく。
誰かのまっとうな経済が、次の誰かの経済を触発する。
競争ではなく、触発による成長が起きる。

その変化は遅く見えるかもしれない。
しかしそれは、決して後戻りしない変化である。
暴力で壊された秩序は、必ず次の暴力を生む。
信頼で育った秩序は、崩れない。

母性経済がつくる文明のかたち

母性経済が広がった社会では、次のような変化が起きる。

  • 利益の最大化より、持続可能性の最大化が評価される
  • 成長率より、幸福の広がりが指標になる
  • 雇用は「使い捨て」ではなく、共に育つ関係になる
  • 高齢者・子ども・弱者が「コスト」ではなく、社会の中心的資本になる
  • AIやテクノロジーは、人を排除する道具ではなく、人を支える道具になる

ここでは、経済は「冷たい計算」ではなく、あたたかな信頼の編集装置へと変わる。

今ここに、一つの花を咲かせる

母性経済革命は、どこか遠くの理想郷を夢見る運動ではない。
それは、今日、あなたの足元において始められる。

  • 誠実な価格で商うこと
  • 誰かの失敗を責めるのではなく、支えること
  • 短期の利益より、長期の関係を選ぶこと
  • 勝者になるより、信頼される存在になること

それら一つひとつが、すでに革命である。

一輪の花が咲けば、世界はその瞬間に、すでに少し新しくなっている。
(つい、「花」と書いたが、今年大活躍のHANAに文脈としてはとてもあてはまる。26年の3月以降のホールツアー行きたい!)
母性経済革命とは、破壊によって世界を変える運動ではない。
育成によって世界を生み直す運動なのである。

参照リンク:

https://note.com/great_slug1244/n/n27d2b105b000