――「敵対せず、内部から書き換える」という設計思想
はじめに、はっきりさせておきたい。
マターナル経済社会は、資本主義を否定しない。
だが同時に、資本主義が握り続けてきたこと、
「最終評価軸」だけは、静かに手放させる。
ここで語られるのは、革命ではない。
制度の破壊でも、対立構造でもない。
これは、意味の主導権をどこに置くかという設計の話である。
Ⅰ.資本主義の限界を、すでに私たちは知っている

多くの人が直感的に理解している事実がある。
資本主義は、
効率化と拡張には極めて強い。
しかし一方で、
- 回復
- 持続
- やり直し
- 立ち止まり
といった「時間の揺らぎ」には、ほとんど対応できない。
だからこそ、ここで選ばれるのは「対立」ではない。
欠陥補完モジュールとしての接続である。
資本主義を倒そうとするのではなく、
資本主義が苦手な領域を、内側から書き換える。
この選択は賢明だ。
そして同時に、非常に危険でもある。
Ⅱ.接続のための大原則
――マターナル経済を実装するために
原則A:資本主義のKPIは奪わない
売上、利益、成長率。
これらを否定する必要はない。
ただし、最上位指標の座からは降ろす。
資本主義のKPIを、
- 絶対評価 → 相対評価
- 目的 → 手段
へと静かに格下げする。
狙いは明確だ。
資本主義を「部分最適」に位置づけ直すこと。
原則B:マターナル指標は、補助線として忍ばせる
母性やケアを、正面から掲げてはいけない。
それは制度免疫に拒絶される。
代わりに、
- ESG
- 人的資本
- レジリエンス
- ウェルビーイング
といった既存の言語を借りる。
戦うのではない。
相手の言語で侵食する。
Ⅲ.具体的な接続点
――制度を内部から変える5つの侵入口
ここから先は、思想ではなく実装の領域である。
接続点①:「投資」の再定義
資本主義の神経中枢は、投資判断だ。
ここに一つ、指標を混ぜる。
**ROI(Return on Investment)**に加えて、
**ROR(Return on Recovery)**を導入する。
RORとは、
その投資が、
どれだけ多くの失敗・中断・脆弱性を
「回復可能な状態」に保ったか
これは感情論ではない。
数値化できる設計領域である。
接続点②:「雇用」の再設計
資本主義の前提はこうだ。
労働=即戦力
マターナル経済は、ここを書き換える。
労働=回復途中の人間を含む
具体的には、
- 可変稼働率
- 非連続キャリア
- 低生産期を織り込んだ評価制度
これは優しさではない。
離脱コスト削減という、冷静な合理化だ。
接続点③:「評価制度」の二重化
単一評価は、制度を硬直させる。
そこで評価を分ける。
表の評価
- 売上
- KPI
- 成果
裏の評価
- 関係の持続年数
- 再挑戦回数
- 他者の回復への寄与
裏の評価は、昇進には使わない。
裁量権にのみ効かせる。
ここに、マターナル経済の冷酷さがある。
接続点④:「失敗」の会計処理
資本主義では、
失敗=損失
だが、ここを再定義する。
失敗=繰延資産
- 即時損金にしない
- 学習ログとセットで資産計上
- 再挑戦時に評価へ反映
これは、
会計と制度の言語で母性を合法化する試みである。
接続点⑤:「公共×民間」の曖昧領域
最初の実装場所は、ここしかない。
- 補助金
- 助成金
- 社会実験
- 準公共事業
理由は単純だ。
資本主義が、最も曖昧さを許容する領域だから。
正面突破はしない。
グレーゾーンから制度を定着させる。
Ⅳ.制度実装者の影
この設計を進めると、必ず浮かぶ疑念がある。
「これはズルいのではないか」
答えは、YESだ。
制度実装者は、
- 理想を語らない
- 正しさを主張しない
- ただ、勝たせにいく
それが役割である。
Ⅴ.まとめ:母性という時間軸の密輸
最後に、すべてを一文で言い切る。
これは、資本主義に
「母性という時間軸」を無断で組み込む試みである。
革命よりも危険なのではないか。
なぜなら、気づかれたときには、
すでに戻れなくなっているからだ。
マターナル経済社会は、
叫ばない。
掲げない。
争わない。
ただ、
いつの間にか、世界の前提を書き換えている。
それが、この設計の本質である。

